現代日本の中小企業
   
 

 80年代は,日本の中小企業が内外にわたって大いに評価された時代でした。しかし80年代後半のバブル経済が90年代に入って一転破裂・崩壊するなかで,日本の中小企業はたいへん厳しい試練のもとに置かれるに至りました。かつて,日本産業の非近代性の象徴的存在として問題視されていた日本の中小企業は,その「近代化」の60年代,「高度化」の70年代,そして「世界の羨望の的」としてもてはやされた黄金の80年代を経て,今日,層として縮小の傾向を強めつつあります。この縮小傾向は,皮肉なことに,かつての「社会的弱者」から「活力ある多数派」という中小企業に対する認識の転換がはかられた80年代において実は既に進行しはじめていたものです。この傾向が90年代に強化されるに至り,創業支援や,起業家教育などが産学官を挙げて取り組まれつつあるというのが今日の状況であす。
しかし,こうした目まぐるしい中小企業の認識の変化は,現実の中小企業総体の変化の科学的認識に基づいているのでしょうか。むしろ,その時々の変化を一面的に定式化したものであったり,一方的な期待や思い入れを定式化したものではないでしょうか。中小企業の諸変化に振り回されるのでもなく,また諸変化に取り残されるのでもない,そういう中小企業の認識を獲得することがなによりも大切だと思います。
 そのためには,日本経済が世界経済のなかでどのような発展の道を歩み,この発展の中で経済と企業の仕組みがどう進歩を遂げ,その進歩がどのような新しい課題を提起しているか,そうした課題に企業はどのような取り組みをしてきているか……というように,中小企業の「入れ物」である日本経済や世界経済の仕組みや動向に注目しながら中小企業を観察することが必要です。「木を見て森を見ない」という言葉がありますが,中小企業を木(しかも大きな木ではなくて小さめの木)だとすれば,日本経済や世界経済は森だといえます。森全体が大きく変わろうとしているのが今の状況だとすれば,ましてや好ましくないような側面も併せ持っている変化であるとすれば,単に自分の身の回りの変化に合わせるだけというのでは,ますます明るい未来は期待できにくくなっているように思います。



 経済の基本的な仕組み(その中での中小企業の位置),経済の発展(その中での中小企業の変化),今日の発展段階と新しい課題,それへの企業の取り組み(中小企業の場合),といったような大きな流れで進みたいと考えています。





日向 啓爾
(ひなた けいじ)

―――――――アピールを交えて

 私が大学に進学したのは,勉強目的ではありませんでした。それでは,払の大学入学の目的は何だったのかというと,クラブに入ってジャズをやることでした。好きな音楽は,小学生の頃は歌謡曲でした。ところが,中学生の頃に兄がアメリカン・ポップスを聞いているのに接して,私の好みはアッというまにそちらに変わってしまいました。同時に歌謡曲が嫌いになり,軽蔑するようにもなりました。高校に入ってからはこれまた兄の影響で,ジャズに移りました。今になって振り返ると,要するに,日本風のセンチメンタリズムから脱却したいという無意識の欲求,また,決められた枠に縛られない自由な創造を味わいたいという無意識の欲求,こういうものが私の音楽的趣味の変遷をもたらしたのではないかと思います。
 そういうことで,私は大学に入りジャズに熱中しました。他方,大学のカリキュラムはゆったりしており,自分流の勉強が可能になります。私は,ジャズをもっと知りたいということからアメリカの歴史に接近し,またそれと平行して,学問の心から書かれたいろんな本を読むことを通じて社会と人間の真実に触れる喜びを見出しました。ここで真実ということについて付言しておきますが,一つ一つの真実は絶対なものではなく,それと分からないような形で偽りとセットになっていること,不分明な部分とセットになっていること,あるいは別の真実と矛盾し合っていること,それらのことが時とともに明らかになってくるということがあります。(なぜなら認識の対象もその主体もたえず変化・発展しているからです。)そこが真実と学問の厄介なところであるとともに,また面白いところでもあります。
 さて,真実とはそういうものだと思いますが,学生諸君に訴えたいのは,この真実(自然・社会・人間の)は一人一人が探究するものだということ,真実の把握は知的な感動と不可分のものだということです。自己を人間として創造していきたいと思うのであれば,人間として学問を本格的に始めることだと思います。ぜひ,本物の学問を始めて下さい。そしてそれは,「やって見れば,意外に面白い」こと請け合いなのです。そのなかで,高校までに詰め込んだ知識のある部分が真に生かされるでしょうし,ある部分のクダラナさもはっきりと認識できるようになると思います。また,本当の知識の大切さを自覚することにもなるでしょう。20歳前後の時期こそは,自己を大きく飛躍させる「適齢期」でもあります。諸君の奮闘を期待する次第です。