シミュレーション&ゲーミングを用いた社会科学研究

 
【1】マルチエージェントシステム
  マルチエージェントシステムをコンピュータ上に構成して人の
  社会的行動を模擬(シミュレーション)的に分析することをめざします。

 【2】 ゲーミング
  心理・社会的な効果を狙ったゲームを考案します。

   
 



 シミュレーションやゲーミングという手法は,ある事象について理解したいけれども,それを直接的に観察したり実験したりすることが困難な場合に有効な方法です。私たちの社会もそうした研究対象のひとつです。伊藤ゼミでは,社会に関する仮説をモデル化し,プログラムによって作り上げられた人工社会とその住人を観察したり,心理・社会的なゲームをデザインしてプレイすることを通して,現実社会への深い洞察につなげることをめざします。
 
  テーマによって研究内容を分けるとマルチエージェントシステムとゲーミングの2つに大きく分けられます。以下に順に説明します。

【1】マルチエージェントシステム

 シミュレーションというのは社会システムの挙動(たとえば人の動作や行為など)を,これとほぼ同じ法則に支配される他のシステムによって模擬することです。イメージとしては,箱庭のような人工的な社会をコンピュータの中に作ってその中の住人(エージェント)たちがどのような行動を取るのかを観察していくといった表現が適切だと思います。

 シミュレーションを利用してめざす研究の方向には大きく2つの目的があります。

  1つはシミュレーションの結果ができるだけ現実社会に近づくようにモデルをより良いものに調整して,そこから仮説の確からしさを検証していこうとする方向です。もちろん,そうして得られたモデルは真に現実社会の理を表しているという保証はありませんが,状況証拠ともいえるべきデータを揃えていくことは大きな説得力を持つと思います。

 もう1つのめざす方向は,我々の予想を覆すような結果を求めていくものです。単純な前提から予想できなかった結果が,現実社会を理解する大きなヒントになる可能性があるのです。

 もっとも,コンピュータ・シミュレーションが社会に役に立つか否かは,こういったシミュレーションをどのように捉えて,何に応用しようとするかにかかっています。もちろんシミュレーションというアプローチは可能性と同時に限界も合わせ持っています。教えられたままシミュレーションを行うのではなく,シミュレーションの応用とその限界について自ら進んで洞察しましょう。

【2】ゲーミング

 ゲーミングといっても娯楽を主目的とするゲームとは異なります。人間関係や社会構造をゲームという舞台で抽象化したもので一種の知的ゲームといえるでしょう。先ほどのシミュレーションという言葉を使うなら,プレイヤーの意思決定に基づいて動作するシミュレーションということができます。

 プレイヤーには演ずべき役割や目標,行動の制約が設定されていて,各プレイヤーの行動の結果や他の偶然の要素などの影響の結果として利益や損益が与えられる...。そんなゲームを体験しながら,それまで日常では経験できなかった事柄を擬似的に体験したり発見したりできることをめざすのです。そのようなゲームをデザインすることがゲーミング研究の目標です。

 社会の中で生きていく上で身に付けておいたほうが良いスキル(技能)は沢山ありますが,このようなゲームをデザインするということは,その背後にある心理的な原理・原則を深く洞察することにつながります。教育心理学社会心理学,あるいは教育工学といった分野の学習が必要となりますが,柔軟で豊かな発想も大変重要です。



 マルチエージェントシミュレーションを考えていく際にプログラミングの知識・技術が必要になってきます。もちろん,プログラミングの経験がなくても,伊藤ゼミナールに入ることは可能です。何事も強い興味があれば必要な知識・技術などは習得できるものです。そもそも誰しもはじめからプログラムを作れるわけではないのですから。
 プログラミングと聞くと,経験の無い人は不安になるかもしれませんが,自分の思考をプログラムという形で表すことは,論理的矛盾や飛躍をチェックすることにもなります。こういった作業自体は,自分は文系であるとか理系であるとかは関係ありません。プログラミングは思考訓練の方法の一つといえるでしょう。興味のある人は是非挑戦してみましょう。

 ただし,プログラミング言語は日本語や英語などの自然言語に比べて比較的単純な文法をもつ人工言語とはいえ,やはり一つの体系をもった言語ですからその習得には模範的なプログラム例を読んで理解したり,反復練習を行ったりすることが必要です。プログラムの文法をおおよそ理解できたら,いろいろなアルゴリズム(問題の解法)やプログラムの設計法を学びましょう。急速に新しい世界が開かれることと思います。
 
また,伊藤ゼミでは文書作成にフリーソフトウェアの一つであるLaTeXを使用していただきます。これはDTPソフトウェアです。公式の提出書類は,すべてLaTeXのソースで提出していただきます。Microsoft社製のWORDなどのワープロソフトは使用いたしません。もちろんWORDは知名度も高く,優れたソフトウェアであると思います。しかし,その使用方法はすでに皆さんは熟知しているでしょう。学生時代にはいろいろなものに挑戦して刺激的な日々を送ったほうが良いと考えていますので,あえてLaTeXの使用を義務付けます。

 LaTeXを使うとWORDではできない特別なことができるようになります。いろいろできるのですが,代表的で分かりやすい例として数式や記号を出力するのがとても得意です(実際,LaTeXで書かれたテキストも出版されています)。



 2年次にオブジェクト指向言語の一つであるRubyの基礎を修得します。

 CやPascalのような高水準言語はトランスレータ方式と呼ばれる言語です。高水準言語で記述されたソース・プログラムはこのままではコンピュータはプログラムの内容を理解できません。このため,トランスレータ方式ではコンピュータが直接理解できる言語である低水準言語に翻訳する作業を行います。この作業のことをコンパイルといいます。一方,RubyやLISPのような高水準言語はインタープリター方式と呼ばれる言語です。この種類の言語はソース・プログラムを1行ごとに解釈・実行していきます。一般にインタープリター方式の言語は実行速度はトランスレータ方式に劣りますが,プログラミングのしやすさ(エラーの修正のしやすさ)には定評があります。

 Rubyは1995年に, まつもとゆきひろ氏によってインターネット上に公開され,現在なお活発な改良が続いています。伊藤ゼミでは早い時期からプログラミングに慣れるためにRubyを標準的なツールとして用いて練習を重ねていきます。

 3年次には卒業論文テーマをおおよそ決定し必要に応じて社会心理学,教育工学などの文献を読み進めていきます。

 4年次には卒業論文の完成と発表会に向けて作業を進めます。





伊藤 公紀
(いとう こうき)

【出身地】北海道

【最終学歴】
 北海道大学大学院工学研究科情報工学専攻博士後期課程修了  博士(工学)

【研究テーマ】
● マルチエージェントシミュレーション&ゲーミングを用いた社会科学研究
● 調剤業務におけるヒューマンエラーの要因分析
● 看図作文法を用いた作文指導法

【趣味】
 ・ 天体観望
天体望遠鏡や双眼鏡などを使って仲間と観望などを楽しんでいます。最近は忙しくてなかなか時間がとれず,ゆっくりと星を見ることが少なくなってしまいました。残念です。
 ・ 映画鑑賞
TVのドラマなどは全くといっていいほど観ませんが,映画は時間が少しでもできれば観ています。映画を見ている間は日常を忘れますね。
 ・ チェス
私はまだまだ初学者ですが,少しずつ勉強して強くなりたいです。
 ・ 形意拳,八卦掌,太極拳
1992年から,主として中国武術の形意拳を中心に毎週練習しています。
 ・ 紅茶・緑茶・青茶を楽しむこと
紅茶はダージリンを英国式で淹れて飲むのが好きです。緑茶は九州の八女茶と新潟の村上茶がお気に入りです。青茶は台湾の梨山茶や阿里山茶が好きです。私の研究室に遊びに来ると,飲めるかもしれませんよ!?

【社会的活動】
 ◆ 日本行動計量学会,日本教育工学会,日本シミュレーション&ゲーミング学会,日本知能情報ファジィ学会,日本オペレーションズ・リサーチ学会,経営情報学会,日本気象学会,日本天文学会,各会員
 ◆ 札幌市西岡地域情報化推進協議会(Hop-Net)メンバー
 ◆ 札幌大学女子バレーボール部 顧問