個々の数理モデルの性質を調べ,方程式などで表現される数学と現象との対応を理解し,さらに現実の問題点の指摘と解決のための手法を身につけることを最終的な目標とする。
次の内容を考えている:
1.方程式や法則の導出作業の吟味
物事の理を見出すためには,漠然と数字や式を並べるだけでは十分ではない。必要な法則を吟味し,対象をきちんと見定めた上で仮定を整理,方程式を導出する。それぞれの計量の暗黙の前提を明示させるなど,方程式が登場するそれぞれの学問知識と同時に,自分の思考を論理加工する技術が必要となる。さらに,個々の学問分野で使用されている概念の数式化などで作業の効率化を試みる。例えば,「yはxに比例する」と,「y=ax
但し a は定数」と較べる。前者はただ性質を述べているだけであるが,後者は a を決めることで x の値から y の値を求めることができることも示している。したがって,比例定数
a を求めることでこの問題は解決され,つまり,作業にあてる我々の労働はこの比例定数を定めることに集中するべきとの方針も立てられる。このように,定式化の作業は,知的労働の効率的な運用に役に立つことがある。方程式の導出の作業を通して自らの思考方法を客観的に分析してもらいたいと考える。
2.方程式の解析や法則の数学的意味づけの議論
ひとたび方程式が登場すると,その取扱いは論理的に取り扱われる。異なる思考経路を経ても,同じ結論になるような整合性が重要視される。しかも,導出された方程式に古典的な解が存在しない事態などもあり,整合性のある手法での方程式の解析は一筋縄ではいかない場合が多い。例えば応用の場面では値としてとらえているものが,実は関数や測度とよばれる概念で説明しないと解の存在が示せないなどの例もある。解の存在が不明な場合は,いくら数値で計算してもその数字が実態のあるものか怪しくなってしまうので,解の存在定理に関する議論は応用上も重要である。多くのアプローチがあり,数学の知識が必要な作業の一つである。
様々な解析的な問題を通し,多様な方程式に応用できる手法を一つ一つ丁寧に身につけてもらいたいと考えている。
3. 数学的諸結果の現実的な意味づけの議論
数学的な解析結果が現実の意味ではどのような意味を持っているのかを考えることも重要である。すでに知られているものか,あるいは新しい発見かどうか吟味しなくてはならない。知られているものでも数学的な意味づけをあたえることで新たな応用を設計できないか議論することも可能である。この作業により,数理モデルを立てる意味について理解を深めてもらいたいと考える。
数学の基礎については高校までの数学を仮定している。しかし,高校までの成績によって適性が決定されるわけではない。各自,自習などにより知識をつけて精進してもらいたい。その際,それぞれに合うよう,テキストや参考書などを紹介する。ゼミナールの作業以外で出てきた数学的な問題,あるいは数学的に見える問題についても一緒に真剣に考えて解決したいと考えている。
このゼミナールでは,物事に真摯に取り組む姿勢と公正で正直な思考を重要視する。それらを身につけている人間のそうした美徳が世の中で役に立つような技術と智恵を提供したい。
基本的にはゼミナール参加者の興味などに従うが,数学的な知識を少しずつ身につけてもらうために以下のように進めることを考えている。
2年次
高校までの数学を総括しながら,微分学,積分学,線形代数の基礎を学習する。具体的な内容はゼミナール参加者の要望に従い市販の教科書を用いて学習するが,進行速度は各々の理解に応じる。基本的な数学的なリテラシーを身につけることを第一目標とする。
3年次
2年次での学習をもとに専門的な知識をつける。それぞれの得意なことや興味のあることを中心に各自で学習したことを他の参加者に説明・報告するスタイルをとる。論理的な思考の訓練も行なう。集合論,位相空間論,微分方程式の基礎についてはゼミナール参加者全体で学習をする予定である。
4年次
具体的な現象の数理モデルを取扱い,その数学的な性質と現象としての意味づけなどの議論を行ないたい。必要に応じ,さらに数学的技術を習得して,目的の方程式の解析を行なう。
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