「20世紀からのメッセージ」
2001年1月

 新世紀最初の日、私にもタイムカプセル郵便が届いた。
消印は昭和六十年九月十四日、どこか見覚えのある筆跡で書かれたあて名。
封筒には「20世紀のわたしから21世紀のあなたへ」などの印刷はあるが、差出人は不明。
「変色防止のため密封保管されていた、
国際科学万博記念の郵便約二百三十八万通が元旦に配達される」という報道に、
「さすが日本!このような企画をして、予定通り確実に実行できる国は、世界中に一体何カ国あるだろう!」
と感心してはいたが、その一通が私あてだったとは!
四度の住所変更にもかかわらず十五年の歳月を経て配達された、謎の郵便の封を切る。
二枚の便箋を埋める細かい字は当時の自分の筆跡。すっかり忘れられた20世紀の私からのメッセージだった。
「この手紙を読む私は多分・・・」で始まる様々な予想は、現実とは大きく食い違っていた。
大学教員になることや詩を書くことなど、当時の私には思いもよらなかったのだから無理もない。
手紙は「自分が選んだ生き方が正しかったと、十五年後にも自信を持って言えるのかどうか知りたいのです」と結ばれており、
これには胸が一杯になってしまった。 
詩の世界ではニーチェの「永遠回帰」の思想に触発され、
「時空を超えて」「数々のわたしが」「過去と現在と未来がひとつに」「突然の覚醒」といった類の表現を多用している自分が、
言葉を超えた所でそれらを実感させられた。
小さな偶然の積み重ねに見える人生も、ニーチェの言葉を拡大解釈すると、
「我々は必然であり一片の宿命である」ということになる。
二十世紀の自分を抱きしめ、「選んだ生き方は正しかった!」と言ってみたい二十一世紀の自分がいる。