「野生のレイディ」 (2000年1月)

「このたび、われらが白石かずこさんが、紫綬褒章という何やら難しい
賞を受賞されました。何はともあれ、その賞を肴にお祝いの会をいたしたく
存じます」との招待状を手にたどり着いた会場は、ステージがある
新宿の洋風居酒屋。約九十名の出席者の顔ぶれは、この詩人に相応しく、
文学・出版関係のみならず音楽・美術・映画・舞踏その他の分野のアーチスト等
など、また国際色も豊かだった。
「ノーベル賞を受賞されたというのなら驚きませんが、これは、お国の為に
尽くしたお爺さんがおもらいになる賞だとばかり思っていましたので
本当にびっくりしました」という乾杯の挨拶に続き、ユーモアと友情溢れる
スピーチが披露された。
「異端として非難されることも多かった詩人の異質性を受け入れることが出来る
ようになった日本という国の為にお祝いを」という友人代表の言葉に、
カナダで育ち帰国して、自分と同じように帰国子女としていじめにあったかも
しれない少女を、抱きしめてあげたいという衝動を覚えた。
詩人は、原風景に忠実に自分の生き方を貫いた。日本社会ではタブーに
近かった表現の為に自ら差別や偏見に遭いながらも、差別を受けたり
虐げられた人々をうたってきた。
会場では、詩人のテーラー・ミニョン氏による「野生のレディ:白石かずこに」と
題した英詩の発表があり、経田佑介氏による訳詩を私が朗読することになった。
「あなたの作品は世界霊魂そのもの」「すべてを包容する『開かれた処女』/
あなたは私たちをそこへ誘いつづける」。最後の一節を読み終えて顔をあげると、
詩のなかで「大地母神」にも喩えられた「野生のレディ」が微笑んでいた。