札幌大学国際文化フォーラム
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○司 会:少し、時間を短くしていただいたのは、
いろいろご質問等もおありだと思うので、まずそのレジュメにもありますようにQ&Aを先にやりまして
その後既に熊谷さんは3冊の詩集を出しておりますし、
まもなくCDも1枚リリースするということになっておりますから、
クリスマスプレゼントとしまして皆さんに詩を朗読していただくと、
彼女のつくられた詩を朗読していただくことを最後にしますので、
それまでの間若干時間をとりまして、皆さんからの質問をお受けしたいというふうに思います。
どなたかございませんでしょうか。どんなことでも結構です。
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○ 質 問:中村といいます。
先ほど同時通訳の練習で数秒おくれでリピートするという練習をされると伺ったのですが
何語おくれというのは意味があるのでしょうか。
やっぱり言われたままについて、すぐにその真似をしてしゃべるというのと、
すこし待ってからというので、また意味が違うのかなというのが。

○ 熊 谷:シャドウイング練習で実際に訳す必要のないとき、
聞いたことをすぐにリピ−トするほうがずっと簡単です。
あとから入ってリピートするということは、集中力を要します。
ただ実際の同通ではスピーチが始まって数語から一文を聞いてからでなくては、
語順の違いなどもあって訳せないのです。
数語から一文聞くとだいたい何の話かわかり、また、あとの話も予測できるので、
そこで飛び込むことになります。一流の同時通訳者ほど「待てる」のだそうです。
待てば待つほど情報が入ってきますから、ただ終わる時間は
一瞬差で終わるというのがいい同時通訳なのですけれども、
やはり慣れないうちはすぐ飛び込んでしまうのです。
同時通訳を使った練習で南雲堂という書店から「ウィスパーリング同時通訳」
という本が出ていていろいろな練習方法がでていますので御参考にされてください。

○質 問:もう一つは、通訳の練習をされる際に翻訳というような技術、
そういう日本語的なもの、英語的なもの、この本質的なものを置きかえることを
じっくり見ていくというような観点から、翻訳というようなこともかなり重要な訓練といいますか、
なるのではないかと思っているのですが、いかがでしょうか。

○ 熊 谷:私は実は通訳は好きですけれども、翻訳は大嫌いなのです。
ただ通訳講座で翻訳が宿題に出たり、その場で翻訳をさせられることもあるので、
「本当に翻訳って通訳練習に本当に役に立つのでしょうか」と前に西山先生にお聞きしたことがあるのです。
「あなた、何年通訳の勉強されてますか?」と逆に尋ねられて、
ということは役に立つということなのだと思って、当時は極力翻訳も引き受けるようにしました。
ただ、先ほど言いましたように練り直す時間ですとか、
単語を引いて言葉を選ぶ時間というのがないので、現場ではもう瞬間的な判断力が必要。
ただしその判断力がどこから出てくるかいうと、
そういう基礎的な翻訳訓練からなのではないかとは思います。

○質 問:どうもありがとうございました。

○ 熊 谷:ありがとうございました。安心しますね、一つでも質問があると。
サクラではありませんよ、今の方は。一つでも出てくださると安心するのですけれども。
淵貞ともっと安心ですが。
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○質 問:山本と申します。この仕事は発声とか、発音練習というのはなさるのですか。

○熊 谷:英語のですか。

○質 問:仕事にかかる前に。

○熊 谷:劇団の方のように?

○質 問:ええ、そうです。観光ガイドでしたら嫌なぐらいに発音練習とか、発声練習するのです、毎日。
この仕事はどうなのでしょうか。

○熊 谷:私はしません。通訳講座でもそういうことはやったことはありません。
ただパブリックスピーキングという意味で、私はアナウンサーの方ですとか、
勿論、詩の朗読の関係もあるからですけれども、劇団の方とか、
日本語でも英語でもそういう個人的にレッスンを受けたことはありますけれども、
発声練習ということはないです。
それどころではなく、大抵専門用語の確認ですとか、打ち合わせですとか、
それから打ち合わせをしながらその方の英語の癖をつかむとか、
そういう方に気持ちが行ってますので、そこまで余裕がないというのが現状です。
ありがとうございました。

○質 問:先ほど通訳者は透明人間か黒子にならなければならないと言ったのですけれど
そうするために何か特別努力されていることとかありますか。

○熊 谷:これ以上痩せてめだたなくなるというわけにはいかないので、
存在感をなくすということでいうと、まず通訳の基本的な技術でいくと直接話法というのですか、
「Aさんはこうおっしゃっておられます」ではなくて、もうAさんになり切って
「いや、本当に最近は何とかですね」と、そういう直接その人に成り代わって言ってしまいます。
逐次では、二人の間に立たない、当事者同士にお互いアイコンタクトをしながら話していただいて、
通訳者は邪魔にならないように訳すと、そういうことが基本なのですけれども、
ただ長年同じ方についていたり、同じ会議がまた何年か置きにあったり、
単なる通訳者ではなく、ミディエイターとして機能することができる場面では、
必ずしも透明人間や黒子にならなくても、スタッフの一員やチームの一員として
自分の存在をプラスとして生かすこともできると思います。
その時点で多分インタープリターという通訳者ではなくてコミュニケーターとか、ミディエーター、
そのプロジェクトや交渉を成立させるために通訳以外のところで何かできれば、
通訳者の範囲は超えていても、それはそれでそれだけの力があって
ポジティブな影響を与えられるのならいいと思っていますし、
将来的には、それこそが機械にできない役務を提供する生き残りの道になりうると思います。
ありがとうございました。

ありがとうございました。(拍手)
○司 会:どうもありがとうございました。