水は記憶を宿すという
熊谷ユリヤ |
そのひとは悲劇の地を巡って かつて赫く染まった河から 時を超えて辛い記憶を宿した水を 救い出し連れかえる H2Oのあとには 無数のちいさな数字がつづくという 水の自己同一性を説いた 物理学者ペトリアノフを信じて 水が抱える物質を分析すると その生い立ちがわかるのだという それぞれの水をそれぞれのガラス箱に棲ませて 耐水スピーカーを沈め α波の姿をしたやわらかな音楽を聴かせて その河が流れる国々の言葉でささやきかける 生まれ続ける子どもたちの未来には 希望のひかりが満ちているのだと やがてそのひとはもう一度巡礼の旅に出る 癒されてあらたな記憶を与えられた水たちを それぞれの原始銀河に解き放つために |
![]() |
![]() |