水は記憶を宿すという

熊谷ユリヤ
そのひとは悲劇の地を巡って
かつて赫く染まった河から
時を超えて辛い記憶を宿した水を
救い出し連れかえる

H2Oのあとには
無数のちいさな数字がつづくという
水の自己同一性を説いた
物理学者ペトリアノフを信じて

水が抱える物質を分析すると
その生い立ちがわかるのだという

それぞれの水をそれぞれのガラス箱に棲ませて
耐水スピーカーを沈め
α波の姿をしたやわらかな音楽を聴かせて
その河が流れる国々の言葉でささやきかける

生まれ続ける子どもたちの未来には
希望のひかりが満ちているのだと

やがてそのひとはもう一度巡礼の旅に出る

癒されてあらたな記憶を与えられた水たちを
それぞれの原始銀河に解き放つために